坊がつる讃歌  人みな花に 酔うときも   残雪恋し 山に入り   涙を流す 山男   雪解(ゆきげ)の水に 春を知る   ミヤマキリシマ 咲き誇り   山くれないに 大船(たいせん)の   峰を仰ぎて 山男   花の情を 知る者ぞ  四面山なる 坊がつる   夏はキャンプの 火を囲み   夜空を仰ぐ 山男   無我を悟るは この時ぞ   出湯(いでゆ)の窓に 夜霧来て   せせらぎに寝る 山宿に   一夜を憩う 山男   星を仰ぎて 明日を待つ   石楠花谷(しゃくなげだに)の 三俣(みまた)山   花を散らしつ 篠分けて   湯沢に下る 山男   メランコリーを知るや君   深山紅葉(みやまもみじ)に 初時雨(はつしぐれ)   暮雨滝(くらさめたき)の 水音を   佇(たたず)み聞くは 山男   もののあわれを 知る頃ぞ   町の乙女等 思いつつ   尾根の処女雪 蹴立てつつ   久住(くじゅう)に立つや 山男   浩然の気は 言いがたし   白銀(しろがね)の峰 思いつつ   今宵湯宿に 身を寄せつ   斗志に燃ゆる 山男   夢に九重(くじゅう)の 雪を蹴る   三俣の尾根に 霧飛びて   平治(ひじ)に厚き 雲は来ぬ   峰を仰ぎて 山男   今草原の 草に伏す